(薬を用いずに治療、克服していくための説明)
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更新日 2021.05.05
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1.はじめに
このページでは最近見聞きすることの多くなった強迫性障害について説明させて頂きます。
テレビや新聞、インターネットのサイトなどを見て、自分が強迫性障害ではないかと不安を感じている人も多いのではないかと思います。
そして、精神科の病院へ行って薬を飲まなければならないのではと心配になっている人も多いのではないかと思います。
今は強迫性障害を原因不明の脳の病気だと考え、薬による治療を行なっている専門家の先生が多いですが、強迫性障害は元々は強迫神経症と言われていた神経症の症状の1種に過ぎなのです。
ですから、原因不明の脳の病気ではありませんので、ご安心下さい。
後で詳しく説明させて頂きますが、強迫性障害の原因は「とらわれ」と言われているものなのです。
そして、森田療法の学習をしていく中で、この「とらわれ」が薄れてくれば、薬を飲まなくても治療、克服していくことが出来ると言われています。
ですから、今、自分が強迫性障害ではないかと心配になっている方は、このページの内容を参考にして、これからの対応の仕方のヒントにして頂ければと思っております。
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2.強迫性障害かどうかを見極めるチェックポイント
不完全恐怖や不潔恐怖を主な症状とする強迫性障害はOCDや強迫神経症、強迫症などと呼ばれることもある神経症(不安障害)の代表的な症状になります。
そして、強迫行為や強迫観念が前面に出ているかどうかが強迫性障害かどうかを見極めるチェックポイントになると思います。
パニック障害や全般性不安障害の場合は直接的な「死の恐怖」が前面に出ていることが多いものなのです。
なお、最近はOCDと呼ばれることも多いですが、OCDは、Obsessive-Compulsive Disorderという英語の略語になります。
さきほども書きましたが、強迫性障害の中でも特に多く見られるのが不完全恐怖や不潔恐怖と言われている症状になります。
不完全恐怖は確認強迫と同じ意味であり、買い物などに出かける時に道の途中で家の鍵を閉め忘れたのではないかと気になり何度も家に引き返し、鍵が閉まっているかどうかの確認を繰り返したりしてしまう症状になります。
不潔恐怖は洗浄強迫と同じ意味であり、自分の手や体が汚れたり、汚染されているように感じてしまい、何度も石鹸で手を洗ったりアルコールで消毒したりしてしまうものなのです。
なお、この汚染の対象がレントゲン検査装置や原子力発電所から出る放射線になった場合は放射能恐怖という症状になります。
このように強迫性の確認行為や洗浄行為を特長とする強迫性障害は社会不安障害やパニック障害と同様に神経症の代表的な症状だと言って良いと思います。
しかし、現在の薬による治療が主になっている精神科や心療内科などの病院では、これらの症状を脳や神経の病気のように捉えている場合が多いように感じます。
しかし、森田療法の立場から見ると全て神経症の中に含まれる症状になるのです。
なお、強迫性障害の具体的な症状は、不完全恐怖や不潔恐怖、先端恐怖症、唾恐怖、加害恐怖など、下記のようなものになりますので、ご自分の悩みと照らし合わせて、チェックしてみると良いと思います。
<強迫性障害の具体的な症状>
1.加害恐怖
人を傷つけたり、殺したりするのではないかと不安になる。
2.被害恐怖
自分で自分を傷つけてしまうのではないかと不安になる。
3.不潔恐怖(洗浄強迫)
手や体が汚染されているように感じ、何度も洗ってしまう。
潔癖症と言われることもあります。
4.不完全恐怖(確認強迫)
自分のしたことを何度も確かめないと気がすまない。
5.詮索強迫
どうでも良いような些細なことにこだわり質問しまくる。
6.数唱強迫
数や回数が気になり、避けたり繰り返したりする。
7.縁起恐怖(恐怖強迫)
ジンクスや占い、宗教的な儀式にとらわれてしまう。
8.自殺恐怖
自分が自殺してしまうのではないかと感じ、恐くなる。
9.疾病恐怖
自分が重病になっているのではないかと不安になる。
10.保存強迫
大切な物を捨ててしまうのではないかと不安で物を処分できない。
11.雑念恐怖症
他の考えが浮んできて勉強や仕事に集中できない。
12.雑音恐怖
他人の出す音が気になり勉強や仕事に集中できない。
13.嫌疑恐怖
物を盗んだと誤解されるのではないかと不安になってしまう。
14.高所恐怖症
吊り橋とか、高層ビルが恐い。
15.地震恐怖
地震が来たらどうしようと常に心配している。
16.万引き恐怖
自分がお店で万引きしてしまうのではないかと不安になる。
17.涜神恐怖
神様や仏様を冒涜するような言葉が浮んでしまう。
18.先端恐怖症(尖鋭恐怖)
注射器や包丁など先端が鋭い物を見ると恐くなる。
19.放射能恐怖
原発の放射能に汚染され健康に被害が出るのではないかと感じる。
20.唾恐怖
唾を飲み込む時の音が気になってしまう。
強迫性障害の症状は上に書かせていただいたように、いずれも完全欲の強さや心配性といった神経質性格の特徴が、その根底にあると考えて良いと思います。
つまり、不完全恐怖の場合の鍵を閉め忘れたのではないかと心配になることは誰にでも時にはあるものですが、これが頻繁になり慢性的になった状態が強迫性障害だと言って良いのではないかと思います。
なお、社会不安障害の場合は仲間外れにされたり人間関係が崩れるといった「社会的な死の恐怖」が、その背景にあると言って良いと思います。
そして、これは元々、対人恐怖症と言われていた症状であり、強迫神経症に含まれる症状ですから、強迫性障害の一種だと考えても良いと思います。
なお、芸能人や芸術家など有名人に良く見られるパニック障害の場合は、このまま死んでしまったらどうしようという「直接的な死の恐怖」が背景にあると言って良いと思います。
これに対して、強迫性障害の場合は直接的な「死の恐怖」ではなく「精神的な死の恐怖」が、その根底にあると言えるのではないかと思います。
ちなみに世界的なサッカーの有名人であるベッカムも強迫性障害に悩んだ経験があるようです。
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3.誤った方向の対応
強迫性障害に悩んでいる時は何とかして症状を治そうと考え心療内科や精神科の病院に行って薬を処方してもらう人が多いものです。
また、自分自身で医学や心理学、宗教関係の本を読んだりすることもあると思います。
また、漢方薬やサプリメント、民間療法などを試みたり、占いや祈祷に救いを求めたりする人もも多いように思います。
しかし、森田療法の立場から見ると、このような強迫性障害の症状だけに目を向け、これを無くそうとする方向では、いくら努力しても症状の克服には結びつかないものなのです。
むしろ、逆に症状の「とらわれ」を強くしてしまうことが多いものなのです。
また、今は病院で強迫性障害の症状を抗うつ薬などの薬物療法で対応する傾向がありすが、これも根本原因である「とらわれ」を改善することにはならないと思います。
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4.症状の原因
強迫性障害の原因は今、上にも書きましたが「精神的な死の恐怖」が根底にあります。
不完全恐怖の場合で考えてみますと、自分の取った行動に抜けがあるように感じ、何度も確認行為を取ってしまいますが、これが森田療法で言っている不安や症状に引きずられた気分本位の行動ということになります。
そして、気になるという気分や症状に引きずられて何度も確認してしまう事で、つまり気分本位の行動を取ってしまう事で、一時的には安心し落ち着く事が出来ても、長い目で見ると、ますます症状の「とらわれ」を強くしてしまうものなのです。
なお、強迫性障害の症状が起こる「キッカケ」、つまり最初の原因は仕事や家族との関係など、何らかのショックな出来事(外的な要因)だと言えるのです。
しかし、症状を強くしてしまう原因は今、上に書かせて頂いたような気分本位の行動を繰り返すことで「とらわれ」が出来てしまうところにあると言って良いと思います。
なお、今は強迫性障害の原因は脳内のセロトニンの分泌量の異常だと言われており、SSRIなどの抗うつ薬で治療されることが多いと思います。
しかし、さきほども書きましたが、セロトニンの分泌量など脳や神経の異常が強迫性障害の根本原因ではないのです。
気分本位の行動を繰り返すことで「とらわれ」が出来、慢性的な不安や恐怖を感じる結果としてセロトニンの分泌量の異常などが起こるのだと思います。
つまり、セロトニンの分泌量の異常は結果であって原因ではない可能性が高いと思います。
また、強迫性障害はもともと強迫神経症と言われていた症状であり、脳や神経には異常がないということは昭和の初期に、すでに精神分析や森田療法の研究によって証明されているのです。
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5.治療と克服のためのポイント
繰り返しになりますが、今は精神科や心療内科の病院に行くとSSRIなどの抗うつ薬で治療されることが多いと思いますが、これは森田療法の立場から考えると、根本的な治療法にはなっていないと思います。
そして、この証拠と言っては何ですが、現在は強迫性障害と診断され、数年から10年以上も薬による治療を続けている人が増えているのです。
これは薬による対応が根本的な治療になっていないからなのだと思います。
また、最近は認知行動療法がクローズアップされていますが、これもまだ発展途中の精神療法であり、マインドフルネスとアクセプタンスに重点を置いた第三世代の認知行動療法は、より森田療法の考え方に近いものになってきています。
ですから、将来的には森田療法とほぼ同じ形に進化するのではないかと思います。
今まで書かせていただいたように、強迫性障害の根本原因は強迫観念や強迫行為に対する「とらわれ」にありますので、この「とらわれ」が改善されない限り症状は克服できないと言って良いと思います。
しかし、森田療法の学習をしていく中で、強迫観念や強迫行為に対する「とらわれ」が薄れてくれば、この結果として薬を飲まなくても症状を克服することが出来るものなのです。